手紙

「手紙来てるよ?」「うわ、多っ!」
「悪天候と休日を挟みましたからね」
「さっさと仕分けて準備しようぜ」「ほいよーこれお前宛て」

「あ、隊長からだ!」
「俺はお前なんぞに手紙書いた覚えはねえぞ」
「グリフィス隊長じゃないっすよ、気持ち悪い……。だいぶ前にいた隊の隊長です」
「気持ち悪いとは何だ、気持ち悪いとは」
「筆マメなグリフィス隊長はらしくなくて気持ち悪いって意味です」
「で、誰からなの?」
「ジュリア隊長だよ?」
「何っ!?」「あ、その人知ってる」

「え、なんですか隊長。隊長のこと知ってるんすか?」
「ややこしい聞き方すんなって」
「というかなんすかその反応、もしかして仲悪いとか?ち、ちじょーのもつれ……!?」「お前ちょっと黙ってろ」
「でもアレですよ、今ハグレ王国にいるジュリア隊長ですよ?ホントに会ったことあるんです?」

「…………随分前、トゲチークで色々あったろ。あの時一緒に討伐隊を組んでた」
「あっ……」「……あー」
「……なんかすいません……」
「……気にするな」

「……変な空気になっちゃいましたね、隊長」
「なんで俺に振るんだよ、俺のせいとでも言いたいのか」
「まあまあ、早く仕分けましょうよ、ただでさえ時間が……ちょっと待て、お前それ僕宛てだろ勝手に開けるな!」「ほよ?」「しらばっくれんな!」
「お前ら、本当にやかましいな」

「はいはい終わり終わり、明日の用意するぞー」「終わり終わり、ジュリア隊長トークするぞー、グリフィス隊長のために」
「余計なことせんでいい」
「一度見たことがあるけど、美人だよねあの人」「俺の話聞いてるか?」
「あんま夢見ないほうがいいぞ」「え、性格悪いの?」
「めっちゃ、エキセントリック……」
「なるほど?……ほんとに?」
「でもウチのグリフィス隊長だって変な人だしな!」「本人を目の前にして言うなよ……あとお前も十分変人だよ……」
「……おい、いい加減バカ話してないでさっさと防具なり武器なり手入れでもしろ。明日出立だぞ」

「それより隊長、ジュリア隊長には手紙書かないんすか?」
「いいからさっさと……いやお前、さっき"らしくない"とか言ったその口で聞くことか?」
「てへ」「お前ェ!」
「でも、私もちょっと気になります。せっかくなんだし、文通すればいいのに……」
「あの、明日の準備……」
「……そうは言ってもな。あいつ、字も文章もめちゃくちゃ上手いんだよ」
「なるほど、グリフィス隊長は字も文章もヘタクソで恥ずかしいと」
「お前は言葉を選ぶという事を知らんのか……」
「じゃあ尚更、書いてあげればいいじゃないですか。練習にもなりますし、私も隊長が書いた報告書を見直して訂正しなくてよくなるかもしれません」
「お前も遠慮がないよなぁ!?」

「てなわけで隊長、紙とペンとインクです。どうぞ。頑張ってくださいね!」
「なんだその良い笑顔は。……はぁ、分かった分かった、書けばいいんだろ全く……」

「だからさっさと準備しろってば……」

+++

 『ジュリアへ

久しぶりだな。ずいぶんと無沙汰をしている。急に手紙なんて出して驚かしてしまったかもしれないが、実は今の隊にお前の知り合いが居るんだ。そいつにお前を知っていると話したら、書け書けとうるさくてな。仕方なしに書いている。

ハグレ王国はどうだ?だいぶ人も増えたと聞いたが。お前が無茶をする性分ではないと知っているつもりだが、体は資本だ。馬鹿なことはしないようにしろ。

こちらは、まあまあ順調だ。
お前、イライザの隊に居たんで間違いないな?あいつも口が達者というか、ずけずけと物を言うというか、誰かに似てる気がする。誰だろうな?まあ、悪い奴ではないし、誰かさんに似た盾使いは頼もしいんだがな。将来が楽しみだ。
俺の脚のほうも、規模の小さい討伐作戦になら出ても支障がない程度には回復している。
また作戦を共にすることがあれば、宜しく頼む。
……あと、太古の森の件で例の借りは返したからな。あれだけの人数に声を掛けるのは骨が折れた。二度とやらんぞ。

忙しい身だとは思うが、いつでもいいから返事を貰えると嬉しい。

それじゃあ、また。
             グリフィス』


「グリフィス、面白い字を書くなぁ……」

ふふ、と柔らかな笑みをこぼして、ジュリアはやけに縒れた便箋を大事そうにたたむ。
封筒に入れ直し、近くの棚の引き出しを開けて、きっちり揃えられた手紙の束のいちばん手前に丁寧に仕舞った。

窓の外を見れば、オレンジ色の空に赤い夕陽が揺蕩っている。今日の仕事も疲れたが、充実した疲れだ。
ジュリアはこの、仕事終わりに今日届いた手紙を手に取る時間がとても好きだった。

「明日も頑張ろう」

誰に言うでもなく独りごちる。

こうして傭兵隊長ジュリアの一日は、今日も満ち足りて暮れていくのだった。